こちらはスキップビートの二次創作ブログです。 原作者様及び出版社様等とは全く関係がございません。

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8-1 troublemaker
***

おうちに帰ろう~Sweet home~


タレントクローク前にあるラウンジは、珍しく人もまばらでしんと静まり返っていた。
通路にほど近いソファーに腰掛け頬杖をつきながら、ぼんやりと携帯を眺める。

掌の中の小さな画面では、黒いロングストレートのウィッグを付けたキョーコが、今夜放送されるスペシャルドラマの番宣をしていた。

PVの撮影の時もそうだったが、相変わらず妖怪のごとき七変化だな。
――ったく。このアナウンサー、魂、喰われかかってるじゃねーか。

ちらり、目の前の小さな紙袋に視線を移す。

このPVが解禁になったらまた無駄に男を刺激するんだろうな…………

袋の中身は、先日撮ったPV。
ミルキちゃんがLMEに送ろうとしていたのを俺が持っていくと奪いと――――いや、預かった。
別に会いたかったわけじゃねぇ。
たまたま近くのスタジオに用があったからついでに寄ってやっただけだ。
…………まあ、PVの出来は良かったしメシくらい奢ってやってもいいけどな。

「わっ」

突然響いた声に視線だけを向けると、床には数本のペットボトルが散乱していた。
スタッフパスを首から下げた男が、大きな箱を抱えたまま落ちたボトルを拾い集めている。
コロコロと足元まで転がってきたボトルを仕方なく拾い上げ、ふと気づく。

これって…………

「あざーす」
頭を下げる男にペットボトルを手渡し、そのままラウンジの奥にある自販機へと向かう。

やっぱりそうだ。

商品棚に陳列されているそれは、キョーコが好きな清涼飲料水。
仕事あがりにおふくろに貰って嬉しそうに握り締めていた姿をよく見かけた。

そういえば、炭酸なのに振っちまって噴き出した泡に狼狽えてたっけ。
フッ。
本当、ドンくせーやつだぜ。

手に持っていた携帯を自販機にかざし
ピッと小さな電子音と共に青く点灯したボタンを押した。
ガコンと音を立て勢いよく落ちてきたボトルを取ろうと身を屈ませた刹那――――

「敦賀さんっ!!」

耳慣れた声。
振り返った視線の先には、茶色い髪と制服のスカートをなびかせて走り去っていくキョーコの姿。

‘ショー’
そう呼ばれるはずだった。
だけどその唇から紡がれたのは、俺ではなく他の男の――――敦賀蓮(あいつ)の名前。
ガキの頃から俺だけに向けられていた無邪気な笑顔で、まっすぐにあいつの元へと駆けていく。
ここに俺がいるなどと気付く様子もないままに…………


「キョーコちゃん、お疲れ様~~」
「お疲れ様です。どうなさったんですか? 今日、敦賀さんもここで撮影でしたっけ?」
「いや、近くを通りかかってね。社さんがどうしても寄っていくって」
「人のせいにするなよ。まあ事実だけどね。
キョーコちゃん、今日はこれであがりだったよね。蓮もさ、仕事が早く片付いて今日はもうあがれるんだ。
だからさ、一緒にご飯食べて帰らない?」
「えっ…………でも」
「いつも美味しいお弁当を作ってくれるお礼。たまにはお兄さんにご馳走させてよ。ね?」

弁当?
キョーコのやつ、もしかしてあいつに弁当、差し入れてんのか?
アホかっ!
ンなことをしたら益々あの男の魂ススルだけじゃねぇかっ!

「おいっ、キョーコっ!!」
「げっ、ショー。なんであんたがこんなところにいるのよっ?!」
「仕事に決まってんだろう。ンなことより、お前!! こいつにメシ作ってやってるのかよっ!」
「なっ、あんた、盗み聞きしてたわね」
「でっけー声で話してるから聞こえちゃまったんだろーがっ! でっ!? どうなんだよ」
「あんたに関係ないでしょう?」
「関係あるんだよっ! キョーコのくせに俺に断りもなく他の男、餌付けしてんじゃねぇよ!」
「餌付けってなによ! 敦賀さんに失礼じゃないっ! それになんであんたに断りいれなきゃいけないのよっ」

吠えるキョーコを軽くいなし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ目の前の男を見遣る。

「敦賀さんよぉ。ヒトのモン、勝手に使わないでもらえますかね?」




――――って言ってやりたいのに…………


…………なんで俺は、こんなところに隠れて盗み聞きしてるんだ?



「キョーコちゃん、何食べたい?」
「えっと……社さんと敦賀さんの食べたいものでいいです」
「そう? じゃあ俺は、カエ――――」
「カエ?」
「っつ!! ハンバーグっ!! ハンバーグが食べたいです~~っ!!」
「最初からそう言えばいいのに」

睦まじい会話を交わす二人が気になって、観葉植物の大きな葉の隙間から様子を覗き見る。だけど背中を向けているキョーコの表情は読めない。

読めないけれど…………
二人の醸し出す雰囲気が明らかにいままでと違っている――――?

嫌な予感が脳裏をよぎる。
あいつら付き合ってる…………のか?

「なんだよ、蓮。カエって?」
「大した事ではないですよ。さ、行きましょうか?」

当たり前のようにキョーコの腰を抱き歩き始めたあいつが、一瞬、射るような視線をこちらに向ける。

「…………っ…………」

あいつ…………俺がいる事に気が付いてやがる!!

強く握った拳が小刻みに震え、噛みしめた下唇からは僅かに血の味が滲みだす。

今、名を呼べばキョーコは足を止め俺を見るだろう。
だけど。
まるで金縛りにあったように声を出すことも追いかける事も出来ず立ち竦み、遠ざかっていく後姿を見つめた。

まただ。
あの日――プロモの撮影の時もそうだった…………

あいつの腕の中で安心したように身を任せ、意識を失ったキョーコ。
俺には見せない弱さを、涙を…………あいつにはさらけ出せるのか?


‘今ならまだ間に合うかもしれないのよ?’


少し前、祥子さんが言った言葉が頭の中でリピートされる。


間に合う?


冗談じゃねぇ。
あいつは俺のモンなんだ。
昔も現在(いま)も、そして未来(これから)も。


NEXT 8-2


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2012.02.22 / Top↑
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