こちらはスキップビートの二次創作ブログです。 原作者様及び出版社様等とは全く関係がございません。

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あの時、追いかけていれば、
君を捕まえていれば、
今とは違った結末になっていたのだろうか…。


Act. 8

木漏れ日の差し込む緑の小道。
木々のざわめき、鳥のさえずり、川のせせらぎ。
キラキラと太陽の光に反射して輝く水面。

脱ぎ捨てたミュール。

裸足で清流に入り、踊るようにワンピースを翻す彼女が笑顔で水しぶきを飛ばす。
ジーンズの裾をまくり、
大きな石に腰かけ足で水遊びを始めた彼女に、少しずつ近づいていく。
水中から取り出したボトルを頬にあてれば、その冷たさに身をすくめながら振り返り、幸せそうに笑った。

キャップを捻ると、しゅわしゅわと音を立てて現れる小さな気泡。
ごくごくと上下する彼女の喉元。

伸ばされた大きな手。その手を握る彼女の手。
ゆっくりと歩き出す二人の手には“きゅらら”のボトル。

***

「お。キョーコちゃんだ」

信号待ちの車内から見えた大きなビジョンに流れる“きゅらら”のCM。
綺麗な笑顔に視線を奪われ、多くの人が立ち止まりそれを見上げる。

以前病室で見た映像は、
水辺で戯れる彼女の背に七色の光が羽のように輝き、まるで妖精を想わせるものだった。あの時も可愛いと思ったが、今回も───。

「……っ……」

花の咲いたような彼女の笑顔が、突如、あの日のあの辛そうな表情に変わり胸がきしむ。
あれ以来、彼女には会っていない。
無事、退院を迎えた今日も彼女は来てはくれなかった。

「あの……。彼女…、最上さんは今日…?」
「ん、キョーコちゃん?今日は来られないみたいだな。彼女主演の映画が先日クランクインしたからな」

「…そうですか。……あの……。彼女に会う事は出来ますか?」
「なんだ、会いたいのか?」

「そういうわけでは…。ただ、その…、お弁当のお礼を…」
「う~ん。時間作ってやりたいけど、今、お前のスケジュールもかなりきついからな」

ほら。と見せられた手帳にはびっしり分刻みに予定が書き込まれていた。
2週間近く入院していたのだからそれも致し方ない。

「それに、キョーコちゃんも結構スケジュール詰まっているみたいなんだよね。
ほら、お前の見舞いに来るのにかなり調整したみたいだからさ」

「えっ?!」

「あっ!」

しまった、とバツが悪そうに口元を覆う社さんは、
「今の、聞かなかった事にしてくれな」と、視線を手帳に移してしまった。

彼女が俺の見舞いに来るために無理をしていた事を知り、自分のした事に胸が痛んだ。

「さっきのCM……。あれ、場所がどこだかわかりますか?」
「……軽井沢って聞いてるよ。霧ケ滝メンフィスホテルの近くだって」
「そうですか。ありがとうございます」


一緒に行こうと交わした約束。
もしあの暴言を許してくれるなら、彼女を誘ってあの場所に行こう。

退院したあの日は、そう思っていたのに。

仕事の忙しさにかまけて彼女に謝罪に行くことを後回しにした事が悔やまれる。



「よかったじゃないか。公表する前で」

とにかく彼女に会わなくてはと、相談するつもりで向かった社長の自宅。開口一番のセリフは、信じられない言葉だった。

「……え?……」

「彼女との事が嫌だったんだろう?」

嫌───?
違う。そんなつもりはなかった…。

「俺は……」

俺は本当にあの子の事がわからなくて……。

「……どうして…。どうして教えてくれなかったんですか?彼女が俺の恋人だと言う事を」
「最上くんが伝えただろう?」

確かに彼女は、自分はフィアンセだと俺に告げた。
だけど───

「でも!!俺には彼女の記憶がないんです。それなのに信じることが出来ると思いますか?」
「……俺や社が言ったら、お前は信じたのか?」
「……それは……。でも!」

おそらく、誰がそれを告げたとしても結果は同じだったと思う。
社長が悪ふざけを考えて、みんながそれに乗じているのだと取り合わなかっただろう。

彼女のことだけ抜け落ちた記憶。
そんな俺と、彼女はどんな気持ちで接していたんだろう。
責めることも、思い出せと強要する事もせず、いつも明るく笑って……。

「あの子はずっと重いものを一人で抱えてきた。愛する心を失った彼女を癒したのはお前だ。だからこそ、彼女の心についた傷はなによりも深い。あの子の事を愛せないなら二度と彼女に近づくな!」

知らない…。
俺は過去、彼女に何があったのかわからない。
わかっているのはあの日、あの子に言ったあの言葉だけ。

「…それでも、お前が彼女と一緒にいたいと望むなら自分の力で何とかしろ。
俺は一切手を貸さない。社は勿論、事務所の人間にもお前に協力はさせない」

「なぜ、そこまで…?」

「それくらいの覚悟がないのなら、すっぱり忘れて新しい人生を探せ!」


あの子を愛しているのか、と聞かれれば。
答えは「わからない」
それなのに一緒にいても確かに彼女は幸せになれないかもしれない。


他の人生を探す?



このまま記憶を失ったまま?



彼女の事も忘れて?



新しくやり直す?


「……」


それも“あり”なのかもしれない…



「わかりました……。……これ以上……、彼女の事は……」

「……そうしてくれ……」


俺の決断に、社長は小さくため息をついた。


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2010.04.03 / Top↑
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